【短編】龍くんと南ちゃん
とてもじゃないけど、恥ずかしくて逃げ帰りたい……
「リュウの奥さん!?この人が?ええっ!?」
隣りの女の子達の驚きようったら……えぇ、そうでしょうとも。美男と野獣ですから。
パチパチパチ………
突然頭の上から聞こえた拍手に、ビックリして振り向く。
そこには例の平良さんのご両親。嬉しそうな奥さんと、ちょっとはにかんだような旦那さんが二人で拍手している。
『おめでとう!』
その声をマイクが捕らえる。
音声を聞き取ろうと会場全体が静まり返る……
『応援してたの、片岡選手だったのね。奥様はなんて気さくで雰囲気の穏やかな良い方なんでしょ。とてもお似合いの夫婦ね♪
私達は、お二人のお子さんが無事産まれる事を祈ってますよ』
「…ありがとうございます」
お二人のその言葉に胸が詰まりそうだった。
私達の事を応援してくれる人達がいる。
そう言って貰えて、それだけで充分です。
一人で感動して、勝手に満足して涙を拭いていた時だった。
『……ちょっと待って?』
響き渡る龍くんの声。
見ると、マイクを奪い取り、さっきまでの笑顔とは打って変わって、真顔になった龍くんがこっちを見てる。
あ、しまった。話する前にバレてしまった~!
『子供?産まれるって……何の話?』
龍くんの視線。キャーッ!どうしよう。怒ってる?
どんな爆弾発言が飛び出すかと、私の前にずいっと差し出される。
あぁ、もうこうなったら、覚悟決めて言うしかない。心臓がドキンドキン有り得ないくらい早い動き……。
『龍くんに報告があります。実は……』
ゴクリ……
『今日、妊娠してる事が分かりました』
喋りながらも、怖くて龍くんが見れない。
声が震えてる。