【短編】龍くんと南ちゃん
「龍弥くんには報告したの?」
「いえ、まだ」
「なんで?凄い喜んでくれるよ、きっと」
「そうなんですけど………大事な試合の前に集中力乱すような事言っちゃいけないので」
「そっか……じゃ試合終わってからのお楽しみだね♪」
「はい……」
凄く嬉しい。私と龍くんの赤ちゃんがここにいる。本当はすぐにでも報告したいけど………ここは我慢しなきゃ。
◆◆◆
「うっわ。凄いね」
会場は観客でうめ尽され、両チームのカラーで染まっている。
龍くんのチームカラーはブルーとホワイト。それが爽やかな彼にはよく似合っていた。
取って貰ったチケットはかなりいい席で選手の顔もよく見える。
「あ、来たよ!」
両チーム選手の入場。その中に背番号37、龍くんの姿があった。一際目を引く容姿。
選手名が紹介されると、あちこちから黄色い歓声と横断幕が上がる。ちょっとしたアイドルなみ。
「凄いね、龍弥くんモテモテ」
辺りを見回しながら呟く璃乃さん。
私だって呆気にとられる。
私達の周りにも、名前や背番号入りのうちわを持ってる子多数。キャーキャー言いながら泣いてる子もいるんだもの。
「キャーッ!リュウ頑張って~♪」
「リュウ、愛してるよ~!」
ギョッとしてしまった。ファンの子達がリュウって呼んでるのは我慢する。でも…愛してるって言っていいのは私だけだよ!?
でもそれ以上に気になった事。
「なんかリュウって結婚してるって噂だよ」「うそっ!あんなに若いのに?」
そんな声が耳に入って来る。
そうだよ、私が妻だよ!そう言って飛び出して行きたいけど……『リュウの妻がこんなんじゃ釣り合わない。がっかり』。絶対そう言われるに決まってる。もし自分が璃乃さん位可愛らしかったなら……もっと自信が持てたかもしれないのに。