【短編】龍くんと南ちゃん
「ほら南ちゃん、試合に集中しよっ」



私が気にしてるのが分かったのか、璃乃さんが慌てて声を掛けてくれる。

いつの間にか試合が始まってる。
スタメン出場の龍くんも全力でプレーしてる。



「ところで、龍弥くんどこのポジション?」

「えっと…」




サッカーが余り詳しくない私は、龍くんがどこを守ってるかなんてよくわからない。皆同じに見えるのよね……



「リュウはフォワード」

ふと会話に割り込んで来たのは、私の隣りで手作りの旗を振っていた女の子達。


「あ、ありがとう…」

「あなたたちリュウのファンならそれ位常識じゃない?」


あ、失笑された。


まぁ、確かに知ってて当たり前だよね。帰ったら龍くんに色々聞かなきゃ……




「龍弥…ボールキープしたよ」



ライトくんの声に慌ててフィールドを見ると…ホントだ!
相手チームの選手を交わしてゴールに切れ込んで行く。



「龍くん、頑張って……」




握り締める拳に汗が伝う。




「あ!」




三人の執拗なタックルで、龍くんが吹き飛ばされた。
見てられなくて思わず目をつぶる。

鳴り響く笛の音………


倒れて動かない龍くんに、思わず身を乗り出す。
心臓がドキンドキンと音を立てる。お腹がぎゅーっと縮まる。




怪我したの?ひどいの?



すると…龍くんは、チームメイトに手を引かれて身軽に起き上がった。




わっ!と周りから上がる歓声。



「う~っ…よかったぁ~……」



もう涙が出そう。
はぁっと溜め息が出る。
私の緊張が伝わるのか、お腹がしきりに張る。
不思議なもので、妊娠がわかると、自分も気にするようになるのか、いろんな変化が分かるみたい。


大丈夫だよ…って、ゆっくり撫でてあげると、段々楽になってくる。




「南ちゃん、大丈夫?お腹痛いの?」


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