ストーカー
ストーキング
 がたんごとん。
 がたんごとん。
 私は今、電車に揺られている。まるで喧嘩でもして、気まずくなったような重苦しい沈黙の中、私は吊り革に片手をひっかけて、重苦しい沈黙の一因となっている。
 ところで、私は、人間には3パターンいると思う。

1、誰のペースにも流されまいと不動に立ち尽くす人。まるで川の中にいる、大きな石のような人だ。こういう石は、人間に拾われたり、苔を育てることとなる。

2、自分のペースで生きていく人。まるで川の中にいる小魚のような人だ。こういう魚は、石よりも目立つから、人とかに取って食われる。

3、相手とペースを合わせて生きていく人。まるで流れ流されている川の中の砂利のようだ。こういう砂利は、ある日予想もできない大海原に行ってしまうことがある。

 と、いうのが、私の持論だ。
 私は人間観察が大好きだ。自分で言うのもなんだが、協調性はあるし、仕事もそこそこできる。しかし、自他共に認める欠点が一つある。それは、人間観察の趣味が高じて「ストーカー」が趣味となっているところ。
 別に好きでストーカー体質になったわけではなく、あふれ余る人間観察欲を満たすための手段に過ぎない。しかし、休日の日に必ず一人はストーキングする。それが普通となっていて、もうどうしようもない。

 さて、そんな私だが、今日は「休日」である。つまり、今、ストーキング中である。
 その人物は、今回は男だ。
 いや、「男」なのだろうか?少年にも見える。オレンジ色のパーカーに青灰色のジーンズというファッション。高校生の女子が使いそうな、ぶりっ子ではないが可愛らしいリュックを、自分の膝に乗せて座っている。
 私はとりあえず、この人物を「マムシ」と呼ぶことにした。なぜなら、リュックの上部に、丸い文字のアップリケで「マムシ」と書いてあるからだ。
 しかし、マムシと呼ぶのにはもう一つ理由がある。マムシは俗に言う美形だ。にこっと笑えば百人中百人落ちるだろう。だが、そんな美形の顔を台なしにしているものが一つある。金と茶色の中間のような色の短い前髪の下に、まるで「マムシ」のように瞳孔の細い目をしている。瞳孔意外は真っ黄色だし、本当にマムシのような目をしている。
 
 と、そんなことを思いながら観察していると、マムシが気の抜けるような声と共にあくびをした。
 しかし、そのあくびを間近で見ていた私は肝がさあっと冷えるのを感じた。同じくあくびを見ていたであろう女子中学生がひそひそと話しはじめる。
 理由はマムシの「舌」にあった。マムシの舌は、まるで蛇のように二つに裂けていたのだ。
 カラーコンタクトをしている上に、舌を二つに裂くなんて、どこの不良?いや、不良でも中々しないと思う。
 しかし、そんなことがあっても私はマムシを観察し続けた。
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