Focus
「もっとちゃっちゃとやってもいいんじゃない?」
初めて会った時にそう聞いたら、「見えないと思って手を抜くなんてできない。クリームの乗りが悪くなるから」そう言いきった。
ミオもプロなんだ。
ブライダルにしろパーティーにしろ、記念日を祝う大切なケーキを任されている自負があるのだろう。その指先は繊細だ。
ミオもまたプロの視線でケーキを見つめたのを機に、退散することにした。
彼女には…思わず、シャッターを切っていた。そして彼女のことを知りたくて、厨房まで押しかけて名前を聞き出すなんて。
……物凄く意識してるんじゃないだろうか。
ミオに聞くにしても、もっといい理由だってあったはずなのに思いつくこともなかった。
彼女が誰なのかその事が、心を占めていて他のことなんてどうでも良かった。
「沙那さん……かぁ」
名前を口にしただけで、花を生けている姿が浮かび、きゅうっと胸を締め付ける。
やばい、意識し過ぎかも…