Focus
「偶然ね。あたしもよ」
ぱっと不満げな顔を引っ込めたミオが、肩から下げたトートバックを漁り、雑誌を突き出す。俺も紙袋から同じように雑誌をミオに渡した。
ミオが、期待を込めて見つめてくるので、先にミオから受け取った雑誌を開く。
開こうとしただけで、目当てのページが
開いてしまうほど、その雑誌にはクセがついていて、どれだけミオがそのページを見ていたのかがよくわかった。
新人パティシエコンクール
ミオが、悩んで悩んで作り上げたケーキが、一番大きな写真と共に最優秀の評価
を受けていた。
「……なにか言うことないの」
ミオは、一向に口を開かない俺にじれて眉間にシワを寄せている。おめでとうも、凄いなという賞賛もない。
ミオのことなら、なんだって知ってる。会わない間のことも全て。