Focus

「あたし礼治さんのファンなんです。今日も会えるのをすっごく楽しみにしてて、それで急いできて。やっぱり慌ててちゃおかしいんだけど…えーと…うれしくてにやけちゃいます」

前髪を直しながら照れ笑いを浮かべる。明るくて素直な子だと感心してしまう。

「ゴメンね、礼治さん。玲奈ちゃん場所がわかったら突進していって、俺ら置いてきぼりよ」

はあふうと息を切らせて、遅れた伊部さんとスタイリストさんがやって来た。

「もータクシーの運転手さん置いて走ってくんだもの。支払いしてきたよ」

「あ、ごめんなさぃお金払います」

慌ててバックを開けると、ポーチやスプレー、ヘアゴムなどが、ばらっと散らかった。

「やぁっ ごめんなさぃ」

そばにいた礼治さんと伊部さんも拾うのを手伝った。

「すみません、玲奈はほんっとあわてんぼうで」

一緒に来たスタイリストさんも、屈んで遠くにとんでいないか視線をさ迷わせた。

「いいんじゃないですかねぇ。元気があるのはいいですよ。年をとってくると余計です」

拾いあげたヘアゴムを玲奈ちゃんに渡しながら礼治さんが答える。

受け取った玲奈ちゃんは、唇を大きな三日月みたいにして「ありがとぅ」と言ってにっこり笑った。


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