Focus

自分のファンだと言った時点で、いつの作品だろうかと考えていた。

最近の物ならいい。でも返ってきた答えが最悪すぎる。『Echo』は付き合っていた彼女と結婚する前から短かった結婚時代に撮ったものだ。

「よくそんな古い写真集知ってるね」

「10年前です。あたしは8歳でした。」

「その頃から?」

こっくりと頷く。

「両親が行く写真展について行って、写真集を買ってもらいました。

その時からずっと考えてました。どうしたら礼治さんに会えるのか」

ずっと考えていたのか言葉にはよどみがない。胸の前で手を握り見つめてくる瞳は真剣そのものだった。

「ただ会うだけじゃ、ダメなんです。そんなんじゃすぐ忘れられちゃう…」

ふいっと視線を逸らせて唇を噛み締める。

「モデルになろうかと牛乳を飲んだのに、身長はあんまり伸びなくって胸ばっかり成長しちゃって…だから礼治さんがグラビアの撮影OKしてくれて、すっごく嬉しかったんです」

まっすぐな目をしていた。ちっぽけな自分が恥ずかしくなる程の。

「だから…あの…あたしに到らないことってたくさんあって…不快にさせてしまったのならすみませんでした」

どこまでも正直な子だ。

「いいんだよ。もう理由もわかったから。もう戻ろう」

先立って歩きだすと、少し遅れてついてきた。撮影のための青空がもどり、気持ちも少し軽くなっていた。

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