Focus
昨日、玲奈ちゃんがナンパされていたことで、彼女の身の安全を守ることも視野に入れなくてはいけなくなったようだ。
砂を踏んで追いかけると、少し行ったあたりで人に捕まっていた。
玲奈ちゃんが身じろぎして見えた人影は、背の高い男性でスーツを着ていた。あれは、さっきから撮影を見ていた奴だ。
走って二人の元まで辿りつくと、玲奈ちゃんを庇うように背中にまわす。
「彼女に何か用ですか」
勢い口調がきつくなる。それなのに相手は余裕の笑みを見せて、腕を組んだ。
「それが初対面の相手に対するあなたの対応ですか」
「相手にもよります。あなたが彼女の撮影を見ていたのを知っています。彼女に用があるなら、俺を通してからにしてください」
後ろから玲奈ちゃんが俺のシャツの裾を引いた。
「結輝さん」
「…何も言わなくていいから」
安心させてあげようと名前がこぼれ落ちそうになるのをこらえる。見ず知らずの相手に無用心に名前を知らせることはない。