Focus
花を傾けた沙那さんが、仕草だけで嗅ぐように促すので構えていたカメラを下げて香りを吸い込んだ。
バラの香りなんてどれも同じだと思っていたのに、花びらが開きはじめたバラは優しく爽やかな芳香を放っていた。
「このバラは香水の原料にもなっているの。純芳と言って国産種なんだけど、最初に香水を知って花を想像していたから、見れて嬉しかったわ。ただ、想像していた色とは違った」
まだ花を傾けていた沙那さんは、ちょっと悲しそうに瞳が陰る。
「真っ白なバラを想像していたけれど、実際のバラは赤いのね。思っていたことと違うことって、けっこうあるものなのね」