いい加減な恋のススメ
ハッと我に返ると慌てて口を塞ぐ。私ったら何を言っているんだろうか。
恐る恐る前を見ると彼も珍しく大きく目を開けて驚いた表情をしていた。
すると、
「あの日の夜、覚えてんのか」
「っ……」
直ぐ近くにまで彼の顔が近付いていて私はその近さに顔を下に向ける。
「お、覚えてないです」
「……」
「わ、私……何かあの日の夜」
しました?、と聞くと彼は暫し黙り込んだ。もしかしてあの夜、私は彼と寝た他に何かをしてしまっているのかもしれない。だけどその記憶が無くて何も思い出せない私は自然と焦りを感じた。
心の何処かで彼に知られては困ることがあるから焦っているのかもしれない。
と、
「バーカ、何もねぇよ」
「え、」
「なかなかの失態でしたから?からかってやろうと思って」
「っ……はぁ!?」
何ですって!?、と私が怒りの声を上げるとドードーと押さえるように彼は私の前に手のひらを向ける。
「お前と寝た理由だっけ?別に生徒じゃねぇからだよ」
「っ……それでも元ですよ!?」
「あー、じゃあ俺も酔ってたんだ」
「じゃあって!」
なんていい加減な!私がまたそう声を上げそうになると彼は「はいはい」とその大きな手のひらで私の口を塞いだ。言いたいことは沢山あるのにその手によって妨げられてしまう。
と、
「てかこんなところでそんな話すんじゃねーよ。互いの立場考えろバーカ」
「(はぁあぁ!?)」
先にこんなところで告白されていたのはそっちじゃないか!
私は持っていた参考書を押し付けるようにして彼に胸を押すと何とかその手から逃れることが出来た。
なんでこの人と話していたらムカつくことばっかり!
「こんの、反面教師が!」
「は、」
おい安藤!、と後から名前を呼ばれたけど私はその声には振り返らずその台詞を残すと場を後にした。