いい加減な恋のススメ
「でも良かった、安藤さん送れないと困るから」
「……何でですか?」
「心配で夜眠れなくなりそう」
一瞬その言葉の意味に躓き、黙り込んでしまったが暫くするとジワジワとその意味が理解できてきた。それと同時に顔が赤くなる。
私は無意識に「駄目です」と声を漏らしていた。
「え?」
「わ、たし……女の子扱いされたことないんでそういうこと言われたら勘違いしてしまいそうになります」
「……」
「……」
て、私は一体何言ってるんだ。これじゃあまるで彼にとっちゃ何の意味もない言葉を真に受けててしまっている自意識過剰女ではないか。
恥ずかしい、と顔を覆う。どうか聞こえなかったことにしてほしい。偶然強い風が吹いたことにして何言っているのか聞き取れなかったことにしてほしいのだが。
「ごめん、別に困らせようと言った訳じゃなかったんだけど」
「分かってます、小田切先生はいい人ですから」
「……」
いい人だからって言うのは知っている。私だって優しくされたら直ぐ好きになっちゃう訳じゃないだろうし、勘違いしてしまうのもそれこそ小田切先生に悪いだろう。
すると隣で歩いていた小田切先生が突然その足を止めた。
私は「どうかしました?」と心配げに振り返ると彼は真剣な表情で私の顔を見つめたまま言った。
「あの日俺が言った言葉覚えてる?」
さっき、同じようなことを違う誰かに言われた気がした。