いい加減な恋のススメ
「こ、幸澤先生……」
幸澤先生は「叫ぶなよ」と私の口から手を離す。
彼だ、幸澤先生だ。あの、私が嫌いな嫌いな幸澤先生だ。
「お前よぉ、まさか俺のことを不審者だとか思ってたんじゃねぇだろうなぁ」
「そ、そんなことは……」
「じゃあ何で逃げてたんだよ」
「う、……」
それは、と言葉を紡いでもその後に続く言葉が出てこない。全くその通りなのだから仕方ないだろう。
そ、そんなことより……
「何で幸澤先生がここに……」
「何でって、家に帰ってんだよ」
「え!?ここら辺なんですか!?」
「そうですけど。ほら、あのマンション」
そうですけどって、じゃあ私の家に近いっていうのは本当だったんだ。そして別に私を追いかけていたわけではなく、ただ単に家に向かって歩いていただけ。
「たく、変な勘違いすんじゃねぇよ」
「な、ななっ、だって!」
「それにそういうこと考えんだったらこんな時間に帰んな」
「……それは、今日は夕御飯を食べに行っただけで」
そこまで言うと彼は「あぁ、」と含みを持たせるように言葉を吐いた。
「小田切と?」
「っ……私が誰と行こうが幸澤先生には関係ないじゃないですか」
「あぁ、そうだね。お前の男関係とか心底どーでもいいね」
「っ……」
ズキンと胸が痛くなる。何で。