いい加減な恋のススメ
でも、
「でも、幸澤先生で良かったです」
「は?」
「だ、だから……後ろにいたのが幸澤先生で良かったなって」
あれ、私何か変なこと言ったかな。それぐらい彼は私の言葉を受けて神妙な顔付きをしていた。
暫くすると彼が「何で」と私に冷たく問い掛ける。
「そ、そりゃ、幸澤先生だとはいえ一応知ってる人だから……これで知らない人だったら怖いですよ」
「……ふーん」
「……な、」
何なんですか、と何かが怖くて後ろへ引いた。何か、彼が纏っている空気が黒く見える。
と、
「お前、間違ってるよ」
「え、」
「知り合いだからって安心するとか……相変わらず頭弱ぇ考え方してんな」
「は!?」
馬鹿にされたのがムカついて「どういう意味ですか!?」と彼に楯突こうとした瞬間に彼の右手が私の左手を捕らえた。その強い力に振りほどこうとしても離れてくれない。
握られた手首から熱さが広がるように、胸がバクバクと音を立てる。
こういうこと、止めてほしい。
じゃないと、私……
「お前見てると苛々する」
そう落とされた言葉は今まで言われたどの言葉よりも温度が無かった。