いい加減な恋のススメ
彼の言葉に一喜一憂して、彼に対抗心を抱いて、小田切先生との約束よりも彼を優先して、今だって止まればいいのに止まれない。
自分じゃない、彼のことになると私の胸の奥にいる何かが指令を出して私のことを突き動かしてる。
「ここ……」
「……」
幸澤先生がさっき言ってたマンションだ。流石の私もそこで足を止めてしまった。
「あ、あの……何か?」
「……話あんだよ」
「話?」
「そ、大事な話」
「っ……」
嫌に期待してしまう、そういうのじゃないって分かっていても。
私はさっき小田切先生に告白されたはずなのに、ずっとそれで浮かれていたのに何故か今は大嫌いな幸澤先生の家の前にいる。
おかしいと思うのに、何故か流されてしまう。
「(いつまで腕握ってるんだろう……)」
上に上がるエレベーターの中でチラッと彼の手を見つめる。私の手首を掴むその手はゴツゴツとして男っぽかった。
大事な話って学校のことかな?それともさっきの話の続き?説教とか?そ、それとももしかして……
「おい、降りんぞ」
「は、はい……」
慌てて彼に連れられてエレベーターを降りた。どうやら5階らしい。私の住んでいるような安いマンションとは大違いだ。やっぱり公務員って凄い。なりたいって思う。
幸澤先生は鍵を取り出すと鍵穴に差し込んだ。
「あ、あの……家族の人は」
「独り暮らし」
「で、ですよね……」
30にもなる男が親と暮らしてるなんてあんまりないよね。