いい加減な恋のススメ
「だから、躾」
「しつけ?」
「教え子の悪いところを直すのは俺の役目だからな、元だけど」
そう言うと彼は私の頬を撫でるようにして顔を上げさせた。しかしそれでいてその力は酷く優しい。まるで逃げる隙を与えてくれているようだった。
「嫌だったら小田切にでも助けに来てもらえば?」
どうしてここで小田切先生の名前が出てくるんだろう。
「仲良いんだろ?今の内に逃げて連絡すれば?そしたらアイツ直ぐ助けに来てくれるよ」
「っ……」
まるで私が小田切先生に告白されたのを知ってるかのような言い方であった。
早く逃げてここから出なきゃ。そうしないとどうなるかなんてこと自分でも分かってる。
彼はこれで私の何を試しているんだろう。ここで逃げたらきっと私の負けになる。そして彼はきっともう私の前からいなくなる。
違う、そういうことじゃなくて。ここで逃げてしまったら私の中から彼の存在が消えていくだろう。
それをずっと望んでいた。
そして、今の私には小田切先生へと向かう道があって、そっちに向かえば幸せになれるって分かりきっている。
だけど私はそこで想像してしまうのだ。彼が私の中からいなくなってしまった、その後のことを。