いい加減な恋のススメ
「幸澤連れてきたよー……て、なにこの空気」
私は目を見張る。何故だか生徒たちに連れられて彼がここに来てしまったからだ。
教室に入ってくると彼は周りを見渡し、私のことを見つけると少し怪訝そうな顔をした。もしかして今のリック先生の言葉聞いちゃったかな。ううん、聞いてるよね。
途中から入ってきた生徒はクラスの雰囲気に戸惑っているようだ。
「えー、何かあったの?」
「そうなの、聞いて聞いて」
あ、言わないでほしい。何故だか彼には私と小田切先生の話を聞かせたくないと思った。
と、
「安藤」
生徒たちの声に被せるように私の名前を呼んだ彼はその場で私のことを手招きした。
「ちょっと来い、話がある」
「……」
そう言って出ていってしまった彼に、ここに居るのも辛くなった私は急いで彼のことを追い掛けていった。
調理室の外で待っていてくれた幸澤先生に「何でしょうか」と声を掛ける。
彼は廊下の壁に凭れながら、
「職員室の机に参考書とか散らばってたけど」
「あぁ、ちょっと授業の準備をしようと思って」
「ふーん、じゃあ何でお前今ここにいんの?」
「それは……」
川西先生に連れられてきたけれど、それでも最後に決めてしまったのは自分だった。