いい加減な恋のススメ
と、
「あ、泉ちゃんだー。バイバーイ」
「っ……」
廊下を歩いていた女子生徒3人に声を掛けられ手を振られた私は一瞬固まった後慌てたように手を振り返した。そして階段を降りていく彼女たちを見つめ、私はゆっくりと手を下ろした。
今名前を呼ばれた、初めて、それも女の子たちに。
ていうか、
「(名前覚えてくれたんだ……)」
そう思うと私は初めての感情にどう反応していいか分からず、思わず目元から熱いものが流れ出した。
「嬉しい……」
「嬉しいって、そりゃ壇上で気軽に声掛けて欲しいってお前が言ったんだろ」
「そ、そうですけど!な、名前呼んで貰えた!」
「"ちゃん"付けだったが?完全に舐められてるぞ」
それは名字呼び捨てにされてる幸澤先生に言われたくない!私は「名前呼ばれたことが嬉しいんですよ!」と反抗するように目を擦りながら言った。
すると幸澤先生は少し意外そうに、
「それだけで?」
「っ……な、なんか文句でも?」
「いや、でも名前を呼ばれたら嬉しいんだ?」
「……そりゃ」
嬉しいですけど、と言った私に幸澤先生は可笑しそうに笑うと、「そっかそっか……」と言葉を漏らす。うわ、何だか凄く嫌な予感。
そしてその予感は見事に的中する。
「じゃあこれからよろしく、"泉ちゃん"?」
「っ……」
貴方が言うのはセクハラです、と言うと幸澤先生はまた「ウザッ」と苦く笑った。