いい加減な恋のススメ
「……」
「その人と、付き合ってます」
彼の足が止まった。止まって、そして私のことを振り返る。
「小田切か」
「……」
幸澤先生はそう溜め息混じりで呟いた。溜め息なんて付かないで欲しい。それだけで傷付くというのに。
間を空けて頷くと彼はそれを横目で見て、そして今度は地面のコンクリートを見た。
つーか、と、
「そういうの、俺には関係ねぇし。お前のこと、家のちけぇセフレがいて楽だなって思ってただけだしな」
面倒くさ、と言い捨てた彼は私から手を離した。
「最低、ですね」
「……」
私が逆にそう言い捨てれば、彼の口が笑った、一瞬だけ。
その後はいつものように怖い顔になった。私にはこの顔ばかりで、他の顔は他の子に向けているのしか記憶にない。
何故、それが悲しいのか。
「じゃあ、何であの日抱かれた」
何故、この人が私の中から消えないのか。
泣きはしなかった、代わりに心が泣いていた。
もう逃げていたいんだ。もう彼に背中を向けていたいんだ。
これ以上傷付かないように、自分を守れるように。
「……馬鹿」
私のこと見てよ。