いい加減な恋のススメ
彼はこの前のことがあったからか、私の顔を見て数回瞬きをすると「あぁ、」とやるせなく声を出す。
だけど今の私にそんなことは関係なかった。
「昨日、ありがとうございました。ノートの」
「……安藤が俺に礼を言うなんてな」
「なっ……今までだって言ったことありますよ」
「そうだっけ」
俺の記憶の中のお前は怒ってばっかだ、と彼は私から目を逸らす。あ、また見てない。
違う、見ててほしい。
私はぐいっと彼が向いた方へと体をずらし、彼の視界に無理矢理入った。
そして、
「見ててくださいね!」
そう大きく告げる。
「多分、今までで1番緊張してますけど、いい結果出せるように、幸澤先生に評価して貰えるように頑張るので」
「……」
だから、
「だから、ちゃんと見てて」
そう、彼の目を見つめて言った。初めて彼の瞳に映った自分の顔を見たかもしれない。
彼は私の言葉に目を丸めていたけれど、次第にそれは細くなって、いつもとは違う柔らかな目付きで私を見ていた。
と、
「初日だからって緊張しすぎだ」
彼は私の頭を軽く叩いた。