いい加減な恋のススメ
「ん、でもヤバいな。このままだと俺と一緒で遅刻か」
「っ……」
彼は私の目の前で目線を合わせるようにしゃがむと「ん?」と様子を窺うように首を傾げた。
「立てる?」
「え、と……」
「無理か、掴まって」
「!?」
彼は突然私の背中に腕を回すと力を入れて私の腰を上げさせた。私は吃驚してその男性の首に腕を回したが、あることを思い出すと力を抜いた。
しかし彼は私の腰を掴むとぐいっと立ち上がらせてしまった。
あ、どうしよう……
彼の目線が私の座っていたコンクリートの地面に注がれる。そこには赤い痕が残っていて、それを見られるのが怖かった。
私は恥ずかしくて顔が真っ赤になった。
しかし彼はそんなことを気にしてないようで、
「なるほどねー、女の子は大変だね」
「……」
「お腹冷やすなよ」
そう言って自分が着てきたコートを私の肩に掛けた。ふわっと薫ったのは煙草の香りで、彼が喫煙者であることを示していた。
少し厚い目のそのコートはじんわりと私の冷えていた体を温めていく。
直感で分かった、この人いい人だ。