いい加減な恋のススメ
それからは怖くてずっと彼の体にしがみついていた。
風邪が冷たかったけど彼のコートがあった分寒くはなくて、だけどその代わりに彼は相当寒い思いをしているのだなと思ったら途端に申し訳無くなってきた。
男の人とこんなに接したのは初めてかもしれないと思えるほどドキドキしながら彼の背中に密着する。余程今まで恋愛とは縁がない人生を送ってきたかだ。
その大きな背中は固かったけれど、温かくて頼もしくて、凄く安心した。
じんわりじんわり、私の心までも何かが温めてくれていく。こんな気持ち初めてだった。
今まで同級生の男の子たちにときめいたことなんて1度も無かったけど、今は友達たちのそんな気持ちも分かってしまいそうな気がした。
相手は男の子じゃなくて、男の人だけど。
暫くするとバイクが徐々にスピードを下げて停車した。ぎゅっと閉じていた目を開いて周りを確認すると私は驚きで数回瞬きを繰り返す。
高校だ。慌てて腕時計で時間を確認すると試験開始の10分前だった。
「ギリギリだな」
彼は完全にバイクを止めるとヘルメットを外して私を下ろした。
「流石に2人乗りしてんのバレたらヤバいからここで下ろすわ。こっから走っていけるか?」
「は、はい」
「おー、受験頑張れよ。腹痛くて無理だったら保健室でも受けさせて貰えると思うしさ、無理すんな」
彼は手袋を外して素手で私の頭を撫でた。とても手荒な撫で方だったが嫌悪感は抱かなかった。