いい加減な恋のススメ
じゃあ俺もヤバいから行くわ、私からコートを受けとると再びバイクに股がる。
最後に私の方を向くと彼は一瞬綺麗に笑って、それからバイクを走らせた。
離れていく彼の背中に私はハッと我に返る。お礼言っていない!
しかしその事に気が付いた時にはもう遅く、彼の姿は高校の教員用の門を通っていた。
直ぐ側に立っていた男性が彼を見た瞬間怒りを現し、顔を赤くした。
「幸澤先生!何してるんですか!遅刻ですよ!」
「すみません、本当」
そんな2人のやり取りを聞いていた。
"幸澤先生"
やはりここの生徒では無かった。生徒としては大人すぎるし、喫煙者でもあるからそれは無いと思っていた。
トクントクンと心臓が甘く波を打つ。ぼけーっとそれを見つめていた私は気が付くと慌てて校舎へと向かった。
コンディションは多分今までで最悪だったと思う。だけどその時に出来ることは全てやった。
絶対この高校に入りたい。そして、彼に直接お礼を言いたい。そんな想いを抱きながらこの試験に挑んだ。
だから合格したときは泣くかと思うほど嬉しくて、あの人に会えるかとおもったら足まで震えてしまったことを覚えてる。
幸澤先生。
高校受験の時に道端に座り込んでいた私を助けてくれた人。
私の好きな人。