いい加減な恋のススメ
あ、れ?
「……」
彼は「じゃあ次ー」と私の後ろの席の生徒の名前を呼んだ。
目が合ったはずなのに、顔も確認できたはずなのに、何も言われなかった。
「(気付かなかったのかな。ううん、こんなところで『あの時の……』なんて言えないよね)」
この授業が終わったら、直接言いに行こう。
「あ、あのっ……こ、うさわ、先生……」
素早く教室を出ていってしまった彼を追い掛けて声を掛けた。慌てすぎたのと彼の名前を呼ぶのに戸惑って変な感じになってしまったけど。
彼は後ろを振り返ると私のことを視界に入れた。
もう1度近くから彼の顔を確認する。うん、やっぱりあの時の彼だ。
「あー、えっと……」
「あ、安藤です……」
「そうそう安藤ね」
何か質問?って全然授業してないけどね今日、と彼は続けて言葉を漏らした。
「質問じゃなくて……その、」
「……」
「あの時は、ありがとうございました」
言えた、ずっとこれを伝えたくてここの高校に入ったと言っても過言では無い。
ドキドキと胸が打って、彼の側にいるだけで血流が凄まじい速さで流れていっている気がする。
でもそれが、私がこの人を好きなんだなって自覚させていた。
と、
「何のこと?」