いい加減な恋のススメ



その言葉にゆっくりと顔を上げた。そこにあの時のような笑顔は無かった。


「え、と」

「誰かと勘違いしてない?あの時っていつ?」

「……」


覚えて、ない?でもそれは別に可笑しいことじゃなくて、確かに1ヶ月も前の話だし、顔まで覚えている方が変だ。
私は、今日までずっと彼のことを考えていたから覚えていただけで……

流石にあの日のことを伝えたら思い出してくれるよね。


「あ、受験の時……」


その時、まるで喉に大きな石が詰まってしまったかのように次の言葉が出てこなかった。
頭が真っ白になってしまい、何故か言葉が発せられなくなった。途中で諦めてしまい、私は口を閉じる。

あぁ、何かこれ、一言じゃ言い表せないな。


「ごめんなさい、やっぱり人違いかも、です」

「……」


すみません、と軽く頭を下げると彼の顔を見ずにその場を去ってしまった。
涙が出そうなところを見られたくなかったのだ。
別に覚えていなかったなんて、そんなの普通のことで、ちゃんと言えば分かってくれたなんて、分かってはいるけど。

だけど、私ショックだった。覚えてて貰えてなくて予想以上に悲しかった。
私が彼のことを会いたいって考えていた分、そのダメージは大きかった。



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