いい加減な恋のススメ
「お前さー」
朝のSHRに向かう前、私は階段の踊り場で世界で1番嫌いな男の説教を受けた。
「餓鬼じゃねぇんだから。直ぐに手出すのやめろ」
「はぁ!?手出したの幸澤じゃん!」
「手出したって……スカート引っ張っただけじゃん」
「何言ってるの!?膝触ったじゃん」
「触ってねぇ、触れたの。あと呼び捨てやめろ安藤」
「そっちこそ!」
「……」
「……」
はぁ、と溜め息を付く幸澤先生は自分の顎を撫でる。溜め息を付きたいのはこっちなのにどうしてなんだろうか。
勿論あんな大きな声であんなことを叫んでしまったのでその場にいた先生たちは皆私のことを見ていた。隣にいた小田切先生もぽかんと口を開けていた。もう職員室に居づらい。
「本当、お前って何も変わってねぇな」
「っ……それは幸澤先生だって」
全然変わってない。ずっとずっと私の敵なんだ。
私は少し赤くなっている彼の顎から視線を外して、「どうして幸澤先生が担当なんですか」と愚痴った。
「はぁ?それ俺が聞きたいよ。俺は実習生の指導なんてやりたくなったの。面倒くさいし」
「……最低」
「だけど上から言われてんだから仕方ないでしょー。それに、可愛くて従順な女なら良かったのにまさかこんな糞餓鬼が来るとはな」
「っ……」
なんですって!?、と私が威嚇をするとそれを避けるように「ほら行くよ」と背中を向ける。今すぐにでも警察犬のように彼の腕に噛み付いてしまいたかった。