いい加減な恋のススメ



どうして彼が教師なんて出来ているんだろう。なんで私が目標としている公務員なんだろう。
私はむっと顔をしかめると彼の後を追う。

あれからもう3年は経ってるし、出会ってからはもう確実に5年は過ぎた。結構な年月であるはずなのに全くの変化を見せない彼。
顔もおかしいことに老けていないし、性格だって相変わらずひねくれている。何か変わっていたら私だって対応を変えてもよかったのに、彼の私への態度が全く変わっていないからそれも出来ない。

いつだって私のことを子供だと言ってあしらう。


「(結婚、まだしてないんだ……)」


何も付けていない彼の左手を見て、そしてまた視線を外した。



「あれ、まだ平安終わってねぇのか」

「幸澤が無駄話するからー」

「ヤバいな、鎌倉まではテスト入れたいんだけどな」

「もっと無駄話していいよ?」


そんな幸澤先生と1人の生徒の話を聞いてクラス全体が声を出して笑った。
何だか椅子に座らずに彼の授業を聞いているのは変な気持ちになるし、彼の話を聞いていると懐かしくとも思う。私の前ではあんな風に笑ってくれないのに生徒の前だと柔らかい笑顔を見せて、私も相当彼に嫌われているんだなと思った。

彼が黒板にチョークを走らせる。字も全く変わっていなかった。 男の人にしては綺麗な字にすら腹を立てていたからか、今に至っても彼の字なら直ぐに分かってしまうぐらい自信がある。なんの自信だって思うけど。



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