いい加減な恋のススメ



もう私は教え子じゃないし、親でもないのに生意気な。
私はいらぁっと頭に来るとジョッキを掴んで中にあった液体を一気に煽った。


「ちょ、安藤さん!それ俺が頼んだやつ!」


隣で小田切先生が何かを言った気がしたけれど、私には全く聞こえていなかった。

いちいちあの人の言葉に振り回される自分が嫌。まるで私があの人よりも弱いみたいに思えるから。
今までずっと真面目に生きてきた分、その分なんの隔たりもなく生きてこれた。真面目にいれば褒められるし、怒られることはないし、誰よりもいい優遇受けられるし、それに自分の強みが大きくなっていくことを自覚するのは嫌いじゃなかった。

テストの点数がよければお母さんに褒められた。お金を無駄遣いせずにいたらお父さんから感謝された。2人の兄にも可愛がって貰えた。
ある意味全てが自分のいいように動いた。だからあの人に出会って私は何でも上手く行く訳じゃないんだという壁にぶち当たった。

だから、大嫌い。私に初めての感情を与えてくれたあの人のことが、嫌い。


「……」


ふと目を開けると細く開かれた視界が揺れているのを感じる。だけどその揺れがその時は心地よかった。そして何よりも目の前にあるこの温かさに懐かしさを感じていた。


「(……)」


私、この温かさを知っている。ずっと閉じ込めていた記憶の中の更に奥。
私がぎゅっとその温もりを抱き締めると誰かがクスッと嘲笑った。




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