いい加減な恋のススメ
寝返りを打った男の顔には見覚えがあった。そしてついさっき彼のことは忘れようと思ったばかりだった。
いつもは綺麗に整えられている緩くパーマ掛かった黒髪は乱れ、男の癖に長く伸びた睫毛。眠っていても整っている眉毛の線も綺麗だ。
数回の瞬きを繰り返す。そして視線を彼の上半身へと向ける。そこには私同様、布に覆われていない胸板があった。
私の人生最大の汚点が、更に黒く染まった瞬間だった。
「幸澤、せんせ……」
どうしてこの人はいつも私の壁となって立ち塞がるのだろうか。
私が彼の寝顔に目を奪われて固まっている内に何かの振動が伝わってしまったのか、彼の瞼が開いてしまった。そしてその視線は何度か空中に円を描いた後、私の顔で止まった。
私を見つけた彼はいつものように私のことを笑った。いや、ここはもしかしたら"嘲笑う"という表現の方が合っているのかもしれない。
「よぉー、安藤」
「っ……」
寝起きとは思えないくらい元気な彼の声。
なるべく彼から離れ、ベッドの端へと移動したがそれでも彼の視線からは逃げられないもはや下のシーツまでもを掴んで体に巻き付けていた。
「あ、の……」
「んー」
彼は前髪を掻き上げた。