いい加減な恋のススメ



幸澤先生は「いちいちうっせーな」とバスタオルと腰に巻くと自分の鞄の中から何かを漁った。そして煙草と銀のライターを取り出すと一服を付こうとする。


「そ、そもそも!それが本当でも教え子とホテル入るって頭可笑しいですよ!」

「"元"だろうが」

「っ……でも、それでも教師同士がホテルって」

「ここは学校じゃねぇし、仕事場出たらもう仕事仲間じゃねぇだろ」


そう言って彼は口から煙草を抜くと白い煙を吐いた。勿論煙草なんて吸ったこともないし、吸う人とも友達になったことがないから私は自然と呼吸を浅くする。
しかし言っていることは殆んど小田切先生と同じなのにどうしてこう言う人が違う人でニュアンスが変わってくるのだろう。普段の行いのせいか。


「で、でも!」

「でもでもばっか」

「っ……彼女じゃない女の子とこんなこと来るなんて、本当に最低ですね」

「……」


彼はその話を聞くと視線を私の方へと向けてくる。きっと彼は女関係までいい加減なんだろう。だからきっとこんなこと出来るんだ。最低男。
何て言われるだろうと思っていたら、彼はそんな真面目な顔をしていた私を見て急に声を出して笑い出した。


「ふはっ、お前本当頭餓鬼だな」

「なっ」

「こういうことは大人の世界ではよくあることなんですよ、安藤先生」


また1つ頭良くなりましたねー、と彼は言うと灰皿に煙草の先を押し付けて火を消すとバスルームの方へと足を進めた。そして私に背中を向けながら話を続ける。


「俺にとっちゃ女を抱いたって事実しか残らねぇから。あとのお前の気持ちなんて正直どーでもいい」

「っ……」

「ま、いい人生経験になったんじゃないデスカ?」


そう言い残すと私のことを嘲笑ってバスルームへの姿を消した。



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