いい加減な恋のススメ
不意に浮かんだ疑問に私は口を開く。
「あの、幸澤先生」
「俺と話してたら苛々すんのに自分から話しかけてくるんかーい」
「っ……こ、これだけです!」
慌てて付け足すと幸澤先生は緩い黒髪のパーマを掻きながら「何?」と冷めた目をこちらに向けた。その目、やめてほしい。まるで私に全く興味がないみたいだ。
人に興味を持たれなくなるということは私にとって致命傷だ。
「彼女、とか……いないんですか」
「……いないけど」
「え、いないの?」
「三十路でいないですけど何か?」
「な、何で怒ってるんですか」
「んー、何か馬鹿にされた気がするから」
何それ、ちょっと可愛い。じゃなくて!
私はそれに「へ、へー」と顔を逸らすと「聞いたからにはもっとリアクションしろよ」と幸澤先生は不満気味。だってそれ聞いてどうやって反応すれば。喜ぶなんてちょっと可笑しい反応じゃないか。悔しがるのも……何か変だし。
「わ、別れたんですね彼女」
「は?何、いつの」
「む、昔付き合ってた人」
「だからいつ」
「っ……私が高校生だった頃」
「……」
すると幸澤先生は首を傾げ、
「俺、彼女いるとかあのとき言ってたっけ」
「言ってないですけど」
「じゃあ何で知ってんの」
「……別に」
「……」
あっそ、と幸澤先生はそれから何も話さなくなった私から目を逸らすと再び教室に向けて歩き出した。
彼女、いないんだ。ふーん。まぁ、彼女いて私とあんな関係になってるなんてもっと憤慨するけどね。
何で私、ホッとしてるんだろ。