いい加減な恋のススメ
するといきなり幸澤先生は私のことをジロジロと眺め始め、その行為に私はピキッと眉間に皺を寄せた。
「……セクハラ」
「若い女を見つめただけでセクハラ扱いされるこのご時世どうかしてるな…」
「どうかしてるのはそっちじゃないですか」
こっち見ないで、と言えば幸澤先生はそんな私を呆れたような目で見て、そしてはぁっと深い溜め息を吐いた。溜め息を吐きたいのは私の方なのだが。
と、
「お前、何も変わってないな」
「はぁ!?」
「餓鬼っぽいところが何1つも変わってない」
「幸澤だって変わってない!」
「そんな三十路の男に変化を求められても……」
あと名前呼び捨てすんな!、と注意され思わず息を詰まらせる。だって高校時代そう呼んでたんだもん。
幸澤先生は「ほんっと餓鬼」と口悪く私に向かって呟くと、
「言っとくけど、元教え子だからって甘く採点しねぇぞ」
「なっ……上等!そんなことしたら逆に怒るよ!?」
「分かった、ならその俺に対する口調止めろよ?」
「っ……」
そうか、私の担当がこの人であるかぎり、私はこの人の言うことに絶対逆らってはいけないのだ。しかしそれは私にとっての第一信条に関わってしまう。
私の第一信条は高校の頃から【打倒幸澤】だ。
不敵に笑う幸澤先生に、この教育実習が不安で仕方なくなった。