いい加減な恋のススメ
『え、幸澤?』
久々に聞く名前ね、と電話越しに杏が呟く。やはり杏も忘れていなかったかと私はその声にうんうんと頷いた。
「最悪だよ、あり得ないよ……なんで私があんな男に教わらなきゃいけないの?そんなの高校時代だけで勘弁だよ」
『そっかー。幸澤がいる学校かぁ。そういえば泉って幸澤のこと……』
「だいっきらいです!」
だったよねぇ、と杏はふてぶてしく言った。そう、私がどうしてあんなに幸澤先生との再会を嫌がっていたのかは私があの人のことを毛嫌いしているからである。
幸澤先生、もとい幸澤先生は私と杏が高校2年生のクラス担任だった教師であり、私たちの日本史を3年に渡り担当した教師でもある。
私の専攻は日本史であるが、それもこの男が深く関係してあるのだ。
私は皆から良く言われるほどの真面目少女で私生活は勿論のこと勉学にも手を抜いたことはない。勿論その頃から公務員になる夢を抱えていた私は小学校、中学校とトップクラスの成績で通ってきた生粋の優等生だった。
高校でもその扱いは変わらず、周りの教師からも信頼されるように度々媚は売っていた。
が、この幸澤という男はそう簡単にはいかなかったのだ。