いい加減な恋のススメ
そんなこんなで今日も1日が終わってしまった。
「いーちゃんお疲れさま」
お疲れさまです、と川西先生のことを見送ると私も帰る準備を始める。
こんなに忙しいっていうのにまだ実習始まって少ししか経っていないなんて。1日が早くも長くも感じるなんて変だよね。
でももう少し休みだし、あと少し頑張らないと。
「あーんど」
こういうふざけた名前で呼んでくる人物は1人しかいないだろう。私は幸澤先生のことを振り向くと「何ですか」と声を漏らした。
「これ、明日授業で使うプリントだから。いる?」
「い、いります!」
「えー、どうしようかなぁ」
「何ですかそれ!」
絶対私の反応が欲しそうだったからそうやって焦らすんだろう。こういうところ本当に嫌いだ。
私が取ろうと手を伸ばせば、その長い腕を活かして私の手が届かないところへとそのプリント持っていってしまう。
「勉強熱心だな、元担任として嬉しいよ」
「嘘!心から思ってない!」
「えー、思ってっし」
そうやってたまに優しい言葉を吐けばいいなんて思ってるこの男も大嫌いだ。
やっとのことでプリントに手が届くと幸澤先生はプリントを持っていた手を今度は私の頭の上に置く。
そして、
「お疲れ」
「っ……」
そう言って2回ほど撫でると幸澤先生は自分の席へと戻っていく。この人にそんな優しい声色で話し掛けられたから吃驚してしまった。