いい加減な恋のススメ



私はブンブンと頭を振ってプリントを強引に鞄の中に入れると立ち上がって職員室を出た。
校門を出ようとしたところで私は思いがけず、お目当ての男性を見つけた。


「小田切先生!」


私がそう呼び掛けると自転車を押していた彼はこちらを振り返り、私のことを見つけるとふわっと微笑んだ。


「お疲れさまです、安藤先生」

「お、お疲れさまです」

「何かありましたか……」

「……あ、」


ヤバい、呼び止めたがいいが何を話そうだとかは考えていなかった。取り敢えずは昨日のことを謝罪とそれの振り替えなんだけど。
しかし全く人をご飯に誘う、それも男性を誘うだなんて経験がない私にとって、なんと言えば小田切先生が一緒にご飯を食べに行ってくれるのか検討も付かない。

取り敢えず私に出来るのは昨日の謝罪だろう。


「さ、さっきは言えなかったんですけど、昨日は本当にごめんなさい」

「ううん、全然気にしてないですよ」

「そ、それでも……なんか、ごめんなさい」

「……安藤先生は真面目な人ですね」

「よく言われます……」

「褒めてるんですけど」


そうか、褒められていたのか。それなのに私の口から出るのは「ありがとうございます」ではなく「すみません」であった。
結果小田切先生は困ってしまったのか、「うーん」と首を掻くと、


「取り敢えず学校出よう。ね、安藤さん」


普段通りに話し掛けてくれたのがきっと小田切先生の優しさなんだろうなと胸が苦しくなる。頷いて足に力を入れると校舎の外へ出た。

学校を振り返ると社会科準備室の窓がこの季節に似合わず空きっぱなしになっていた。




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