いい加減な恋のススメ
そんな正論を言われてもなかなか気持ちが決まらない私を可笑しく思ったのか、杏は不思議そうに私に話し掛ける。
『もしかしてさ、何かがストッパーになってるってことはない?』
「ストッパー?」
『本当は小田切じゃなくて、違うものが気になってるとか』
「……」
その瞬間にポンッと頭に浮かんだ顔。私は凄まじい勢いで頭を振った。な、ナイナイナイナイ!絶対にナイ!
「そ、そういうんじゃないし!」
『……何、その慌てよう』
「べ、べべ、別に慌ててないよ」
コホンと喉を鳴らせば杏が「ふーん」と不本意そうに呟いた。
そうだよ、何であの人の顔が浮かんでしまったんだ。全然この話題と関係ないのに。
むううっ、と顔をしかめていると向こうで「あ、そうだ」と杏が何かを思い出したようだ。
『話変わるんだけど歩がまた皆で晩御飯食べたいって言っててさ、私は用事入って行けないんだけど泉は行く?』
「いつ?」
『今度の土曜だって』
歩というのは私と杏の共通の友人であり、高校の頃の同級生だ。よくそのときに仲が良かった子達で今でも夕御飯を食べに行ったりしている。
私はカレンダーに土曜の用事が何もないことを確認した。
「いいよ、行けそう」
『あ、ほんと?じゃあそう伝えておくわ。私の分もよろしく言ってて』
「うん、分かったー」
じゃあそういうことで、と最後はこんな会話をして通話を切った。
明日も早いしさっさと鞄の中を整理しようと中を開くとペラリと何かが床に落ちた。