▼リセット。
落ち着け、と口を動かして、
必死に私を押さえようと腕をつかむ涼ちゃんの手すら、キリキリと私の心を握りつぶしていく何かを緩めることはできなくて。
ぁ、と続かなくなった声に代わるように、ボロリ、と生暖かい水滴が頬をかすめて落ちた。
酸欠でくらり歪んだ意識に、全身から骨が抜き取られたように入らなくなった力。
ダメだ。
ここで気を失っちゃ。
次目を覚ました時、もう17時になってしまっているかもしれない。
涼ちゃんはもういないかもしれない。
ひょっとしたら手遅れで、次こそもう戻れなくなっているかもしれない。
―――――――それだけは。
祈るように伸ばしたはずの手すら、ゆらりとその場で揺れただけで。
何度も私の名を呼ぶ涼ちゃんの声は、どんどんとエコーをかけて遠ざかってゆく。
カシャン。
最後に私の目が捉えたのは、
胸元から滑り落ちた錆びた金の懐中時計が、小さく跳ねて転がる間抜けなワンシーンだった。