ぼくらのせかい



「はい、今日はこれでおしまい!特に気になるところはないかな?」



医者が優しくハチに問いかけると、ハチはこくんと頷く。



「脳波には問題ないはずなんだけどなあ…まだ記憶は全く戻らないかい?」



ハチは困ったように笑い、すみません、と小さく答える。



「でもまあ、親御さんもずっと海外だなんて大変だねえ。幸子ちゃんがいるから安心できるのかもしれないけど…」


「しょうがないですよ。それに私も四六時中は一緒にいることはできませんが、隣に住んでるわけですし、なにかあったらすぐかけつけますから」


私とハチは所謂お隣さん。
と言っても、ハチは大きな一軒家でほぼ一人暮らしで、私はその隣の小さなアパートに住んでいる。


私には両親はいない。
だから二人とも一人暮らし。
困った時はお互い様だ。



「ご両親もたまには帰ってこればいいのにねえ」


はい、と看護師さんにカルテを渡しながら医者はぼやく。



ハチの両親は共働きでずっと海外にいる。
本当にずっと。
ハチが眠っていた時こそ月一ほどで帰国していたが、目を覚ましてからは
もう安心したのか、電話がたまにかかってくるぐらいだ。


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