不完全恋鎖
「送るよ。」


「良いよ。悪いし。」


彼女の最寄り駅は僕が降りる駅よりも3つ先だ。


「ほら、あそこの駅前にケーキ屋さん出来ただろ?母さんに買っててやろうかなって。今年は母の日何もしてなかったし。」


「ああ、それはイイね。あそこのケーキ美味しかったよ。私もうちの家族もみんな大好き。そう言うことなら私も何か買って帰ろうかな。」


恋をすると人はどうやら嘘を吐くのが上手くなるらしい。


母さんには母の日にちゃんと日傘を買ってやった。


今、使っているのが古くなってきて新しいのが欲しいって近所のおばさんと話しているのを聞いたから。


僕は自分が貰うのもあげるのも実用的なものを選ぶようにしている。


折角なら重宝して使って貰うにこしたことない。


けれど兄貴は母の日にたった一本のガーベラをあげていた。


僕には理解出来ない。


花なんて枯れてしまうのに。


枯れたら捨てるしかないのに。


そんなものにお金を出すなんて僕には考えられない。


しかも母の日に何故、ガーベラなんだ。


普通はカーネーションじゃないのか?


それもたったの一本。


バカにしてる。


まるで小学生レベルのプレゼントじゃないか。


なのにーーーー


なのに、、、


母さんが大切そうに一輪挿しに生けたそのガーベラが何故か特別なものに見えるのは僕の気のせいだろうか。


僕のあげた日傘はあんな素敵なの勿体なくて使えないって母さんはずっと仕舞い込んでいる。


日傘なのに日の目浴びないなんて……皮肉だな。



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