あんず~泣き虫な君へ~
どれくらい経っただろう

たった三秒ぐらいだったか、でも私にはその三秒ほどの沈黙が1時間ぐらいに思えた。


沈黙に耐えられなくなった私は細々とした声で男性に呼びかけた。


「…あのー」


目をまんまるにして固まっていた男性はハッと我に帰り、また少年のような目をした。


「秋風奏人さんって、あの秋風さん!?」


「え?あの秋風さんかどうかはわかりませんが、多分そうです。」


「秋風奏人さんって言ったら日本を代表するピアニストじゃないか!?その娘さん!?」


あーまたこの反応だ。

私の父を知らない人は、日本ではあまりいないだろう。
テレビや雑誌などによく出ているし、感情を指で奏でる天才ピアニストなどといわれ、父に弟子入りしたがる人も少なくはない。


だからこそ、私は父の事を好きになれない。
家にはほとんど帰らないし、音楽の話しかしない。
私の事など知ろうともしないのだから。



そんな事を考えていたせいか、酷い顔をしていたようで、男性は気を使ってか話を逸らした。
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