溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「そこまでだ」
気づけば、ウェイターの正面に誰かが立っていた。
目をこすってよく見ると、それは狐のように目がつりあがった、酷薄そうな顔の男。
急に静かになった周囲を見回すと、ウェイターや招待客、従業員の格好をした男数人が、銃をつきつけられ、両手を上げていた。
「警察庁公安部だ。銃刀法違反の現行犯で逮捕する」
ウェイターに銃を突きつけた男は片手で手帳を取りだすと、ハスキーな声で冷たく告げる。
警察庁、公安部……。
私が必死でひとりを相手にしているうちに、公安部は次々に不審人物を見抜き、征圧したというわけか。
気づけば、普通の招待客や従業員のほとんどは、広間の外へ避難していた。
「よし、手錠をかけろ」
キツネ目の男が言うと、警察官たちがテロリストの腕をつかむ。
そのときだった。
「な……っ」
突然、中庭に面していた広間の窓から、昼間のような明るい光が飛び込んできた。
ガラスが破壊される爆発音がし、思わず耳をふさぐ。
やっと目を開けた時には、テロリストたちの姿がこつ然と消えていた。
あとには、呆然とした警察官たちと、ガラスや窓枠の破片が取り残されている。
「閃光弾……。外にも仲間がいたか。油断したな」
落ち着いた声がして顔を上げると、新城さんが膝をついてこちらを見つめていた。
周囲では公安部も次々に外に出ていき、追跡を開始しているようだった。
ここからは、私たちの仕事じゃない。それより。