溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「矢作……もう少し格好つけさせてくれよ」
新城さんはてれくさそうに、顔を歪めた。
その瞬間、熱い何かが胸の中から溢れだす。
「あ」
矢作さんが私の顔を見て、目を丸くした。
「一ノ瀬、大丈夫か?そんなに痛むか?」
そう聞かれて、きょとんと首をかしげる。
すると、鼻の横からあごをつたい、ぽたぽたと水滴が自分の胸に落ちた。
「紫苑、泣いてるのか?」
新城さんに聞かれて、ようやく事態を察した。
これ、涙だ。私、泣いてるの……?
そう言われれば、視界が歪んで、目から水滴があとからあとから溢れる。
「だって……」
これはきっと、ほっとしたから。
目の前で新城さんが私を庇って撃たれて、冷静になれるわけなかった。
「新城さん」
ぎゅっとその首に抱きつくと、矢作さんの口笛が聞こえた。
「邪魔そうだから、俺行くわ」
そうして足音が遠ざかっていく。
「おい……どうした?」
いつもとは違う、戸惑ったような新城さんの声。
「良かったです。新城さんが無事で。本当に、良かったです」
「紫苑……」
「ごめんなさい。怖かったんです。テロリストより、あなたがいなくなることの方が」
怖かったから、受け止められなかったから、それを考えずに済むように、闇雲に敵に向かっていっただけ。全然、冷静なんかじゃなかった。