溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「なんでしょう」
「事情聴取をしたい。少し時間をくれ」
篠田さんはカツカツと靴を鳴らしながら近くに来ると、勝手に新城さんの椅子を引き、手帳を取り出しながらどかりとそこに座った。
「まず、先日のテロリストの人相などを話してくれ」
なるほど、テロリストの捜査か。
あとで似顔絵でも作らせるのか、篠田さんは細かく私が相手をしたウェイターの人相を聞き、手帳に書き留める。
「あのとき、テロリスト以外に妙な行動をとっていたものはいなかったか?」
一通り犯人像を聞き終えた篠田さんが、質問を変える。
「といいますと?」
「テロリストと内通しているような仕草をしたものとか」
「ううーんと……」
そう言われても、テロリストにさえ気づかなかったものなあ。
と思い、はっとする。
あの場には民間SPも警視庁SPもいた。もちろん、ホテルの警備員や従業員も。
それなのに、数人のテロリストが入り込んでいても誰も気づかないなんて、普通あり得る?
相手がそうとう手強いか、ホテル側、あるいは警察に内通者がいたのか。
できるかぎりあの場での光景を思い出そうとしてみるけれど、不審者の心当たりは出てこない。