溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「いいか、ちゃんと聞けよ」
「なんですか」
「──今すぐ、俺と結婚しろ」
……ん?はい?
聞き違い……か?
結婚と聞こえたけど……。
また思考停止した私に、新城さんは言いなおした。
「結婚して、SPなんて辞めろ」
胸に、ちくりと針が刺さったような気がした。
そうか……新城さんは私と、一緒に働きたくないんだ。
機動隊でも、陰で言われていたのは知っている。
『一ノ瀬は女のくせに生意気だ。結婚して辞めればいいのに』
『無理だろ。あんな体も態度もでかい女、誰がもらってくれるんだよ』
そんな会話が聞こえてきて、もうこの部署にはいたくないと思った私に、異動の話は渡りに船だった。
そんな無駄なことを思い出して黙った私の前で、新城さんが自分のシャツのボタンに指をかける。
任務中ではないので、その首にネクタイはされていない。
新城さんは自分の体を見せつけるように、片手で胸のボタンを3つ開ける。
現れた厚い胸板に、ちらりと見える割れた腹筋。
自分とは全く違う体に、不覚にもどきりとした。
何をしている、紫苑。これはセクハラだ。早く逃げ出して訴えなければ──。