溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「警視は仕事熱心ですね」
はあ、とため息をつき、新城さんはこちらを見上げた。
「すまん、紫苑。長くなるかもしれないから、先に帰ってくれ」
遅くなるのは全然かまわないけど、なんだか新城さんが、この部屋から私を追い出したがっている気がする。
もしかして、特殊な力を使っているところを見られたくないとか。
「わかりました。では、失礼します」
「外にタクシーと警官を待たせてある。使え」
篠田さんが目もあわせず、ぼそりとそう言った。
もしかして、私がまた襲われるかもしれないから、気を遣ってくれたんだろうか。
「ありがとうございます」
篠田さんに会釈をすると、松葉杖をつき、部屋の外に出た。
タクシーに乗り込み、ふと自分の左手を見る。
そこにはまだ、新城さんのぬくもりが残っているような気がした。
早く……早く、すべてが解決しますように。
そうすればきっと、この気持ちをどう伝えればいいか、答えを出す余裕が産まれると思うから。