溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
記憶 【side新城】
「早速頼む」
篠田……俺たちの間で『キャリア』というあだ名で呼ばれているそいつは、目の前にフォークの入ったビニール袋を突き付けてきた。
「はいはい、見ればいいんでしょ見れば」
まったく、公安ってやつはどいつもこいつも偉そうで腹が立つ。
偉そうにしていたって、こんな事件の一つも自分だけの力では解決できないくせに。
そうだ、警察がさっさと捜査して解決してくれていれば、俺と紫苑だってこんなに長い間離れていなくても良かったんだ。
そう、幼い俺と紫苑はある日、ある事件に巻き込まれた。
紫苑はまったく覚えていないようだが、俺の頭の中にはまだはっきりと残っていて、ときどきこうして思い出してしまう。
いや、思い出すというよりは勝手に頭の中で古いビデオテープが再生されるように、勝手にあの日の映像が脳裏に浮かぶ。
頭が重くなる。喉の奥に何かがつまったように、息がしにくくなる。
「どうした? 顔色が悪いが」
キャリアに声をかけられ、ハッとする。
こんなことを考えていてはいけない。いや、考える前に浮かんでくるのだから仕方ないのだけれど、それに捕われていてはいけない。
俺は軽く頭をふり、受け取った袋の中のフォークに意識を集中した。
俺が読めるのは、このフォークが持っている記憶だけ。このフォークに触れた者の記憶が全部読めるわけじゃない。