溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】


『おい派遣さん、これも運んでくれよ』


その場を仕切っている黒服が、テロリストに声をかける。

周りの誰もが、彼がいることを不審だと思っていない。どうやら、派遣から来た臨時の助っ人だと思っているようだ。

こういった大掛かりなパーティーのときには、バイトを雇うことが度々あるのだろう。テロリストはそのことを知っていて、元々来るはずの派遣社員に金を払うかどうにかして、成り代わったのだろうか。

とにかく彼は、そうして会場に入り込んだ。


客がどんどんとなだれ込んでくる。その中には、国分外務大臣、国分議員と紫苑、俺たちもいる。

テロリストの視線は、自然に周りを見渡しているように見えて、常に国分親子の動きに気をつけているようだった。そして、もう一人、テロリスト以外に彼が注視していたのは……。

その相手が動き出した瞬間、テロリストが耳に指をあてた。おそらく、俺たちが使っているような小型の無線機が耳に入っているのだろう。

そうか……もしやとは思っていたが、そういうことか。

そっと目を開ける。そこには、腕組みをしたキャリアが、黙って俺を見下ろしていた。


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