溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】


「見えたことを全部、話してくれ」


まったく、せっかちな野郎だ。こっちはたったこれだけでも、けっこう疲れているってのに。

俺はふうと息をつくと、見えたことを順番に話だす。その際、俺の憶測は憶測は省いておいた。

けれど、カンの鋭いキツネ目のキャリアは、口に手をあてて黙って思考を巡らせている。きっと、俺と同じようなことを考えているのだろう。


「……ご苦労」


それだけ言うと、キャリアは俺が袋に入れたフォークを受け取る。


「これは?」


手袋を外すと、相手は手をひらひらとふる。


「いらん。捨てておけ」


……そんなに俺は汚くねーぞ。

そう思いはしたが、言うのはやめておいた。


「篠田さん、早く事件を解決してくださいよ。せっかく協力したんですから」


俺たちSPは、マルタイを守るのが仕事。事件の解決は、こいつらに任せるしかない。

昼間に俺たちの前に現れたテロリストは、おそらく紫苑を狙ったのだろう。彼らは俺の推測が正しければ、国分親子を狙っているのとは別の組織ということになる。

二つの組織を相手にするのは、さすがに面倒だし、なにより紫苑の危険が増すことになる。それだけは避けたい。


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