溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「そうだな。敵は意外と近くにいる。早く決着をつけなければ」
珍しく反論をしなかったキャリアは、挨拶もせずに部屋を出ていく。
お前、本当に人間かよ。普通、「お疲れ」とか、「じゃあな」とか、色々あるだろうよ。
誰もいなくなった病室で、点滴のルートを見つめる。点滴はまだ悠長に、ぽたりぽたりと落ち続けていた。バッグには、まだ三分の一ほどの液体が残っている。もう少し時間がかかりそうだ。
「なんてことだ……」
あのパーティーの日、紫苑は非番だと思って普段していた。突然バカ息子に呼び出されたあいつは、あの日あそこにいたせいで、命を狙われることになってしまったのだ。
そして、そのことにまだ彼女は気づいていない。
どうしてこんなことに。
何年も前。まだ俺に何の力もなかったころ。でも、とても幸せだったあのころ。
ある事件に巻き込まれた俺は、隣にいた紫苑をなんとか守ろうとした。
けれど、上手にはできなくて、結局お前とは離れ離れになってしまった。