溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
そしてあのときから、俺はものの記憶が読めるという、おかしな特技を身につけてしまった。どうしてそうなったのかは俺にもわからないが、あの時から、というのははっきりと覚えている。
離れている間、ときどきあの日の映像が脳裏で再生されては、離れてしまった紫苑のことを思った。
元気でやっているだろうか。悲しい思いはしていないだろうか。
そうしてやっと再会できたと思えば、紫苑は事件のことをきれいさっぱり忘れてしまっていた。しかもSPなんて俺と同じ職業に就いていた。
紫苑が初めてSPルームに姿を現した日、記憶の中の彼女を面影を感じ、まさかと思った。
けれど彼女は俺を知っている気配をつゆほども見せない。
そして、握手をした瞬間……手から、紫苑の記憶が俺の脳に流れ込んできた。
それはまさしく、俺が持っているのと同じ、あの事件の記憶だった。
あの事件で記憶を失ってしまったことも、わかった。
せっかく元気に暮らしていたことがわかったのに、SPでいれば、またあの日のような事件に巻き込まれてしまう。
焦った俺は、突然プロポーズをし、思い切り引かれてしまった。あれは本当に失策だったと思う。
「それにしても、どうしてわざわざ、危険に巻き込まれに行くようなことばかりするかね」
けれど、これが俺たちに与えられた運命ならば、俺は受け入れよう。
今の俺ならば、きっとお前を守ってやれるはずだから。
昔も今も、ずっと俺の特別な女の子。
紫苑。お前を、守りたい。